
ハプスブルク7番勝負 その四 聖母子対決
展覧会のオフィシャル・サポーター、「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」や「怖い絵」で人気の中野京子さんと、読売新聞東京本社文化部 前田記者が展覧会出品作品から7組の作品をピックアップして対談します。
第4弾は、「聖母子対決」です!
ロレンツォ・ロット
「聖母子と聖カタリナ、聖トマス」
1527-33年
ウィーン美術史美術館蔵
V.S.
フランシスコ・デ・スルバラン
「聖家族」
1659年
ブダペスト国立西洋美術館蔵
V.S.
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
「聖家族と幼い洗礼者聖ヨハネ」
1668-70年頃
ブダペスト国立西洋美術館蔵
前田 ウィーン美術史美術館で見て、すっかり感心したのがロットの絵。日本での知名度は今一つかもしれませんが、この絵を見ると、ルネサンス絵画の中で重きを置かれてきた理由がよく分かる。ブルーの何とも美しいこと。もう一つは、幼子イエスですね。
中野 利口そうですね。
前田 幼子イエスって、難しい題材じゃないかと思うんですよ。威厳を持たせようとしたのか、オッサンっぽく見える絵がけっこうありますよね。この絵は確かに赤ちゃんで、なおかつ威厳が備わっている。
中野 あえてかわいらしくなく描いた、という説もあります。特別な存在だから、普通の赤ん坊にはしない。
前田 あれはわざとなんですか。純粋に、かわいい系だと、まずはムリーリョですね。ここでは洗礼者聖ヨハネと一緒に描かれています。十字架を組み、将来を暗示しているけれど、2人とも、ころころとして愛らしい。
中野 十字架の下のメッセージは「見よ、神の子羊」。今で言えば、漫画の吹き出しようなものですね。父親の聖ヨセフがコンパスを持っているのも面白い。図像学で言えば、コンパスを持つのは天文学者や建築家。ただの大工じゃない、ということかしら。
前田 ちょっと眉間にシワを寄せて、確かに知的に見えます。
中野 スルバランの聖ヨセフはなかなか魅力的。
前田 こちらの聖家族は理想的な家族像ですね。おくるみの幼子イエス。よく見ると、しっかり目も描かれています。
中野 聖母マリアと見交わしている。愛情豊かで、いい感じですね。授乳の様子も、実際に観察して描いたのか、リアリティーがあります。当時はボタンはまだないので、こういう風に切れ込みで乳房を出せるようにしたんですね。服飾史の面でも面白い。
前田 幼子イエスの髪がぺたんとしているのも、赤ちゃん的でリアル。
中野 しかし、どうなんですか、このマリアの姿勢。下半身はどこに?
前田 えーと、背景に溶かし込んでいますが、前かがみになっているのでは?
中野 普通、座って授乳しますよ。
前田 ……このまま授乳していると、腰に来そうですね。
中野 ロットの聖母マリアもちょっと座り方がおかしくないですか。しかも、幼子イエスの体重がまったく感じられない。
前田 ……これで体重を支えていたら、腰を痛めること必至ですね。
中野 ロットの絵って、いつもどこかヘンなんですよね。わざとなのか、代表作「受胎告知」も大天使ガブリエルがでーんと出てきて、びっくりした猫が逃げてゆく。
前田 しかしまあ、この絵は天使もきれいだし、僕はロットに一票ということで。
中野 私はスルバラン。マリアは美しく、ヨセフはハンサム。いろいろ言いましたが、好きな絵ですね。