
ハプスブルク7番勝負 その参 オルフェウス対決
展覧会のオフィシャル・サポーター、「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」や「怖い絵」で人気の中野京子さんと、読売新聞東京本社文化部 前田記者が展覧会出品作品から7組の作品をピックアップして対談します。
第3弾は、「オルフェウス対決」です!
ルーラント・サーフェリー (上)
「動物のいる風景(背景にオルフェウスとトラキアの女たち)」
1628年頃 ウィーン美術史美術館蔵
V.S.
ジョヴァンニ・アントニオ・ブッリーニ(右)
「オルフェウスとエウリュディケ」
1695-1705年頃 ウィーン美術史美術館蔵
前田 今回はオルフェウス対決です。ギリシャ神話に出てくる詩人、オルフェウスは死んだ妻エウリュディケを連れ戻しに冥府に下る物語でよく知られています。ブッリーニが描いているように、振り返ってはいけないと言われたのに振り返ってしまい、エウリュディケの奪還に失敗するわけですが、さて、サーフェリーの絵はどこがオルフェウスものなのかというと……。
中野 単なる動物画に見えますね。
前田 オルフェウスは奥の建物の前に座っているんですが、これってすごく小さな絵なんです。縦35㌢、横49㌢。オルフェウスはまあ、身長5㍉くらいかな。
中野 当時の人も「ここにオルフェウスが!」という発見の喜びがあったでしょうね。「ウォーリーを探せ」みたいに。ただ、この物語って知らない人も多いと思うんですよ。エウリュディケ奪還に失敗した後、オルフェウスは女性に興味を持たなかったという理由で、デュオニュソスの信女に殺されてしまう。その後、首は川に流されました。
前田 その意味では斬首つながり。(2.斬首対決参照)
中野 ここには今にも襲いかかろうとしているデュオニュソスの信女も描かれています。周りの動物は逃げだそうとしている。
前田 でも、手前の動物はまだ悲劇に気づいていない。いろいろな動物が平和に暮らしている。サーフェリーはルドルフ2世の宮廷画家ですから、珍しい動物を描くというのが絵の目的の一つなんでしょうね。
中野 ブッリーニの絵はハプスブルク家に仕えたプリンツ・オイゲン公のコレクションだったそうですね。オイゲン公は面白い人物で、ルイ14世の隠し子だったのではとも言われている。ただ、容姿がすぐれなかった。当時のフランスでは容姿が伴わないと将校になれなかった。だから彼は頭に来て、ハプスブルク家に行って、司令官になる。しかもフランス軍を打ち負かす。ルイ14世が戻ってこいと誘っても言うことを聞かず、孫の代までハプスブルク家に仕えました。
前田 国より「家」の時代なんでしょうか。
中野 そういうオイゲン公が飾っていた絵で、やっぱりちょっと変わっている。
前田 後ろを振り返って、エウリュディケが冥府に引き戻されそうになった瞬間、空振りをしちゃったオルフェウス、っていう絵ですね。
中野 オルフェウスの主題はいい絵が少ない気もします。文学だと、妻が後ろから付いてきているのかどうか分からず不安になるというところがサスペンスですが、絵だと難しいのかもしれない。この絵はつかまえ損ねた瞬間を描いて、ドラマチックにしている。
前田 惨劇が起ころうとする直前を描いたサーフェリーと、決定的な悲劇が起こった直後を描いたブッリーニ。そう考えると、なかなかいい勝負かもしれませんね。
中野 ちなみにオルフェウスの物語はオペレッタ「天国と地獄」になっています。オルフェウスは嫌な奥さんが死んでよかったと思っているのに、世論が許さない。そこでしぶしぶ迎えに行くんだけど、エウリュディケはちゃっかり冥府の神ハデスの愛人になっている。オルフェウスはいちおう連れ戻すものの、本音は嫌々だから、全然振り返らない。それでは困るということで、ゼウスが雷を落とし、びっくりしたオルフェウスが振り返って神話どおり、という抱腹絶倒のオペレッタですよ。