
ハプスブルク7番勝負 その弐 斬首対決
展覧会のオフィシャル・サポーター、「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」や「怖い絵」で人気の中野京子さんと、読売新聞東京本社文化部 前田記者が展覧会出品作品から7組の作品をピックアップして対談します。
第2弾は、「斬首対決」です!
ルーカス・クラナッハ(父)
「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」
1535年頃
ブダペスト国立西洋美術館蔵
V.S.
ヨーハン・リス
「ホロフェルネスの首を持つユディット」
1595-1600年頃
ウィーン美術史美術館蔵
V.S.
ヴェロネーゼ
「ホロフェルネスの首を持つユディット」
1580年頃
ウィーン美術史美術館蔵
前田 ヨーロッパの美術館に行くと、どうしてこんなに……と思うくらい、斬首の絵がありますよね。クラナッハはドイツ、ヨーハン・リスはフランドル、ヴェロネーゼはイタリアの画家です。ヨーロッパ全土で首を斬っているという。
中野 男性はお好きなんじゃないですか?
前田 え、そうなんですか。僕は本当に苦手なんですが。
中野 後の時代、19世紀末になると、またサロメなんかが人気になりますね。
前田 なるほど。あれは魅惑と恐怖がないまぜになったファム・ファタル(運命の女)の系譜ですから、やはり男性にはそういう嗜好があるのかな。
中野 ヴェロネーゼの絵については、斬られた首は画家自身の肖像かもしれないと言われています。そうされてもいい、という気持ちが男性にはあるのかも。だからこそ、女性の方はきれいに描かれなければならない。どうせなら美女に首を斬られるほうがいいでしょ?
前田 うーん、美女でも何でも首を斬られたくはないものですが、確かにクラナッハのサロメは、この画家らしいクール・ビューティー。ヴェロネーゼの女性もそういうことをしたと思えない無垢な表情ですね。
中野 ユディットなのに、血もはねていない。サロメは褒美として洗礼者聖ヨハネの首を求めただけですから、返り血を浴びていなくてもいいんですが、ユディットは敵国のホロフェルネスを酔わせて、自分で手を下す。その点、ヨーハン・リスのユディットは荒々しい感じでいい。この女性ならやるな、という感じがある。
前田 しかし、断面から血がピューッと出ているのはさすがにちょっと……。中野さんの『怖い絵』(朝日出版社)には、さきほど(イケメン対決で)名前が出たアルテミジア・ジェンティレスキの「ホロフェルネスの首を斬るユディット」、続編の『怖い絵2』にはボッティチェリの「ホロフェルネスの遺体発見」が載っていますよね。ボッティチェリの方は、やっぱり首の断面が描かれています。
中野 ええ、あれはユディットが去った後の“犯行現場”です。確かに首から血が出ている。ただし、体はトルソとしての美を備えています。
前田 日本で首が飛んでいる絵というのは思いつかないですね。岩佐又兵衛くらいかな。
中野 もともと肉体そのものに興味が薄いのかもしれない。ヌードもない。
前田 春画でさえ着物を着ていますよね。喜多川歌麿の入浴図は全裸だけど、あれは入浴シーンですからね。近代になっても、入浴はヌードを描く口実であり続ける。
中野 西洋絵画が「女神」ということを言い訳に、ヌードを描いたようなものですね。
前田 ヌードと同じで、斬首の絵も日本人には生々しすぎるということでしょうか。中野さんは「この女性ならやるな」というリスのユディットに一票ですよね。僕はどれもゾッとするけど、絵としてはクラナッハかなあ。