
ハプスブルク7番勝負 その壱 イケメン対決
展覧会のオフィシャル・サポーター、「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」や「怖い絵」で人気の中野京子さんと、読売新聞東京本社文化部 前田記者が展覧会出品作品から7組の作品をピックアップして対談します。
第1弾は、「イケメン対決」です!
V.S.
ジョルジョーネ「矢を持った少年」 ティツィアーノ「イル・ブラーヴォ」
1505年頃 ウィーン美術史美術館蔵 1515-20年頃 ウィーン美術史美術館蔵
前田 「THEハプスブルク」展ではウィーンとブダペスト、ハプスブルク家ゆかりの二都から名画がやってきます。その見どころ案内を兼ねて、比べて見ると面白いかもしれない――という作品を選び、中野さんと語り合ってみようと思いました。それがこのウェブ版の特別企画、名付けて「THEハプスブルク」7番勝負です。これから7組の名画を取り上げていこうというわけですが、ところがどっこい、まっさきに提案したこの「イケメン対決」から議論が紛糾してしまいました!
中野 だって、全然イケメンじゃないから…。
前田 ジョルジョーネとティツィアーノ、いずれ劣らぬヴェネツィア派の巨匠ですよ。ジョルジョーネ、だめですか? スフマート(ぼかし)の効果も絶妙だし、実際に見ると、赤が本当にきれい。まさに天上的と言いたいような赤なんですよ。
中野 絵としてはいいです。すごく神秘的で。口元は優しいし、性を超越しているような感じもある。でも、イケメンかなあ。
前田 ということは、ワイルドな男が好きってことですか? だったらティツィアーノはいけるのでは?
中野 これ、イケメンですか!?
前田 えーと、中野さんの言うイケメンっていうのは……。
中野 キアヌ・リーブスです(きっぱり)。 「マトリックス」は10回は見ましたね。DVDも持っています。
前田 ……分かりました、イケメン話はやめましょう。「イル・ブラーヴォ」は絵としてはどうですか。
中野 すごく緊迫感があります。だいたいフランソワ1世の治世が始まるころの絵ですよね。王をモデルにしたと言われるオペラ「リゴレット」には、スパラフチーレという殺し屋が出てきます。つまり、殺し屋稼業が平気でまかり通った時代。少し後になりますが、イタリア・バロックの巨匠カラヴァッジョは人を殺していますし、ティツィアーノの息子も強盗にあって、危うく殺されかけました。女流画家アルテミジア・ジェンティレスキはレイプ裁判で、父親の同僚画家を訴えています。
前田 けっこうワイルドな時代だったんですねえ。2007年の「パルマ」展で注目されたスケドーニという画家も破滅的な人で、テニスに熱中し過ぎて右手の自由を失いかけた揚げ句、おそらく賭博の借金を抱えて自殺した、と読んだことがあります。
中野 「イル・ブラーヴォ」には、そういう時代の雰囲気がよく出ていますね。
前田 葡萄の冠をかぶった青年の後ろから、黒い顔をした男が迫ってくる。今にも斬り合いになって、血しぶきが飛び散るだろうと思わせる。だから青年の血色がいいのも何となく不吉な感じになるし、袖の赤黒さもまがまがしい。
中野 ティツィアーノの赤は血を使っているんじゃないかと疑われたことがある。さすが色彩のヴェネツィア派、こんな暗い画面の中でも赤が生きていますよね。
前田 それに対して、ジョルジョーネの赤は透き通るよう。好一対ではありますね。
ちなみにイタリアの画家だと、ラファエッロの「若い男の肖像」(左図)も出品されますが。
中野 男性の眼から見ると、これもイケメンなんですか?
前田 まあ、髪形がスヌーピーですよね……。イケメン話はさておき、ジョルジョーネとティツィアーノだと、どちらがお好みでしょう?
中野 私はティツィアーノ。ドラマチックで、いろいろなことを考えさせてくれるから。
前田 では、僕はひたすらきれいなジョルジョーネに一票、ということで。